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04/10(Tue)

一人一人の闘い

これもまた非常に貴重な映像を見つけた。この曲は関西で活動している時、尊敬する指揮者の一人、そして現在は作曲家でもある知人からも「何時かやりたいよな。」と言い合っていた、ヒンデミットの弦楽器と金管楽器のための演奏会音楽である。聴いてお分かりの通り、クールな曲であり、金管奏者ならば、惚れ惚れする曲の一つ。Mで悉く却下されたから、今度はPで提案してやろうと思っているところ。この取り合わせは、オケ奏者として聴いても曲の格好良さ、そしてクールさと言った魅力に実に加え、面白みがある。
これから述べる事は特定のもしくは全てのオーケストラにおけるケースであるとは言わぬ。しかし乍ら15年間国内外の管弦楽の世界に奏者として身を投じてきた小生がその生の現場で見てきたことからの一般論を述べさせていただくとすれば、弦楽器群、と金管楽器群はあまり反りが合わないという事。現在のMやSそしてPの特定の奏者のことを指して言っているのではない。あくまで俺なりの眼から見た雰囲気だ。それは何故か。練習回数においてアマチュアはプロの様に、数回のリハで本番を迎えるという事はない。中には数多くエキストラに乗っている人も居り、そうした人達は数多くの楽曲の演奏経験が豊富で、少ない回数で少なくともそのオケの本番に差し障りの無い範囲で自分のパートをちゃんと仕上げる能力をもっている人達かもしれない。しかし乍ら、それでもアマチュアの場合、団は一つの本番に数ヶ月の練習を期間を設けるのが通常である。ただし、我々アマチュアは音楽で生計を立てているわけではないので糊口を凌ぐために当然の事乍ら平日には仕事に勤しまねばならない。練習は週末・土日のみ。ただし、一人身の時には未だこうした音楽の活動はし易いが、家庭持ちになり、特に家族からこの古典音楽への活動に理解を得られないと家庭は喧々諤々となり、子供でも出来たなら、家庭も顧みずに毎週毎週自分ばかりオケで楽器を演奏しているとこれは趣味ではなく放蕩というレッテルを貼られ、家庭内の喧々諤々ぶりは阿鼻叫喚の様へと姿を変えるかもしれない。嫌だなあ、そんな事になって一家離散なんて。という事で、家庭は顧みることとすべきだと俺は思う。
兎に角、そうした週末音楽家の暮らしを続けていても、例えばMが毎週金曜に練習として月4回。
五ヶ月の練習期間が与えられたとして、20回。これには本番とGPも含まれ、この2回の練習では少なくともアマチュアの演奏会にご来場頂けるお客様に恥じない程度に曲が仕上がっているのが当たり前(そうならない事例も『決して』少なくは無いが)なので、18回とする。プロだと平均2〜3回で本番を迎えると聞いた。一度トレーナーで来られたプロの方からは、「3回だと、多いナ。」というお声も頂いた。精一杯の妥協で、この「多いナ」の、『たった』の6倍の練習量でこのプロの人達が演奏する同じ曲を同じ楽譜で同じ作りの楽器で、同じ本番に臨まなければならない計算になる。6倍ものハンデがあるのに? 音楽の出来具合などについてはそもそも尺度で測ることなど出来ないと判っているが、アマチュアのオーケストラで演奏している人にプロと比べてどうですか?と仮に訊いてみれば判ると思うが人によっては愚問と捉えるだろうし、俺などは、測り知れない差があるとしか答えられない。在京のプロオケも数多く、それらの演奏比較や掲示板などでも様々な評価があるが、実際の演奏技術レベルを比較してみても、どんなにアマチュアで上手いとされる団体でも、プロのどの楽団にも敵わない。それは、我々全てのアマチュア奏者も先刻十二分に承知している。勿論自分達の音楽への妥協ではない。一つだけ言える絶対確かな事は、昨日創立してこれから奏者を集めながら活動していくオケからウィーンフィルまで自分達の目指している音楽、そして本番の出来にその各々の当事者の観点からして100%パーフェクトな点数をつけられる出来のものは何一つないということだ。演奏結果に不満ばかりなのかということではない。楽曲を素晴らしいものに仕上げていくというのはバベルの塔を建設するが如く、その高みに限りは無く、奏者で在り続ける限り、自分の、自分達の出来る事、そして出来た結果の更に更に上を目指し続けなければ死んでしまうという事に他ならない。
さて、また話が逸れた。俺はここでプロとアマチュアの演奏技術の差を比べるつもりはない。ここで言いたいのはオケ全体での練習時間という物理的なものの差である。そしてこれが如何にして弦と金管の一般論的に言う反りの合わなさに関与するかであるが・・・。時間的な制約の差はプロとアマチュアとでは約6倍と述べた。奏者各人のご家庭の事情によっては全ての練習参加は難しいかもしれない。となるとこの倍数値は更に少なくなり、5倍、4倍と減って行く。NYROは各定期の間隔が2ヶ月でシーズン5〜6回の定期を行わなければならなかった。それは凄まじい忙しさだったね。ラガーディアから練習場に飛んで行く日が続いた。そして殆どの本番の前夜は徹夜で練習してそれでやっとなんとか付いてゆけるというものだった。
そして、この限られた練習において、これはあくまでこれまで参加してきた数多くのオーケストラでの実体験から言えることだが、その練習の殆どは弦楽器の指導に当てられると言って過言ではない。弦ってそんなに難しいの?結論を言おう。難しい所の話ではない。凄まじい・・・。勿論全て楽器において一朝一夕で修得出来るもの等何一つしてないが弦楽器の全てにおいては何年も何年も基礎から練習を始め、そして『必ず』先生にレッスンについて積み上げて鍛錬してやっとアマで演奏できるというものだと思う。独学では100%不可能だろうあれは・・。プロだと幼少の頃からされていないと先ず無理だろうと思うが・・・。国内外の数多くのオケを渡り歩いてきたが、東京のアマチュアのレベルは恐ろしい。アマチュアのプロとは差があると述べはしたものの、プロでも本当に演奏が困難とされる作品をも演奏する団体もアマから次々と出てくる。今回何とかPに合格させては頂いたが、P、M,S、そして・・・Tの弦セクションに入団しようとするならば、やはり、豊富な経験年数、継続的なレッスンを積んでいる人でないと付いてゆけないだろうと思う。俺も昔ギターをやっていたことがある。もう、今は全く駄目だ。よくあのYJM等の高速ギターを頑張って練習したりしていたものだが、あれらのフレーズなどはマーラーやリヒャルトなどにおける、バイオリン、ヴィオラなどでは全くざらに登場してくる。そして何プルトという夥しい人数でこれを音程も、テンポも寸分のずれなく合わせなければならない。肩当ての楽器のみならず、チェロやコントラバスの方々も練習そして本番でも一弓入魂のような凄まじい形相で弾いておられる方も決して少なくない。Tでのマーラー、Pでのリヒャルト、Mでのラフマニノフの時等に、こんなすさまじいフレーズを良く弾けるものだと感服した。練習時間の殆どを当てられても全く仕方が無い。
弦の方々は特に金管に対してこう思うだろう、人数も少なく合わせ易いだろうし、何よりも黒玉の数が自分達と比べて格段に少ない。良いな・・・と。ただし、金管楽器にも運命がある。例えば1STバイオリンで二人が腕が攣って弓を動かせなくなったとしよう。それでも全体の音楽が止まる事はない。しかし、トランペットで奏者が二人顔が攣って吹けなくなりましたということになると、オケ全体の演奏そのものが破綻、崩壊し、事実上「演奏が止まる」大事故にもつながりかねない。
誇張ではない。本当のことである。本番においては指揮が振り下ろされた後は、何が起こっても舞台以外からマッチョの正義の味方が登場してピンチを助けてくれる事は有り得ない。
舞台上の自分達一人一人の場所である。
さて
弦の方々のご苦労も先に十分述べ理解した上で比較させていただくが、例えば弦楽器は弓の代わりに自分の肘を弦に擦り付けて音を出す楽器だろうか、呼吸法と超丹田を鍛えることにより肘の内側を手首と関節付近の筋力により支えて鋼、柔双方に対応させ、交響曲の間中弦に自分の肘の内側をこすり付ける耐久力を持って演奏する楽器だったらどうだろう。途中で腕が腫れて破けて血が出て、演奏できなくなったら、耐久力が無く、能力の低い奏者ということになったらどうなるだろう。
失礼。あまりに愚かな例えだ。昔も、そしてこれからも弦楽器は弓で弦を擦って音を出す楽器であり続ける。ただ、上のこの愚かな例えを、ホルン、トロンボーン、そして我々トランペット奏者が聞くと皆言うだろう。僕達の日々はそれに近いものがあると。
弦の人に対する嫌味のつもり等毛頭ない。何時も彼らに対し本心から申し訳ないと思うばかり。その良い例がチャイコフスキーの交響曲第5番だ。弦は全楽章を通じて凄まじいフレーズを演奏し続け、その交響曲の最後の最後の一番輝く旋律において弦は只管にダウンで4分音符を弾くに留め、この輝かしい旋律をトランペットとホルンに明け渡してしまう。自分達の苦しい集大成を全部こちらに渡してくれているのだ。ところが、この箇所は我々トランペット・ホルンにとっても、フルマラソンの後、競技場トラックのゴールテープ前で競技係員からにっこり物干し竿を渡され、
「棒高跳び、おやんなさい」
と言われるに等しい箇所でもある。オケ全体で最も熱いこの箇所。弦の方々にとっては超絶技巧の集大成で大団円のこの箇所で、もしミスしたら・・・。彼らの我々に対する憤怒は如何ばかりのものだろう。聴衆も演奏家と共に客席で想いを共にしながら聴いている。彼らの頭には高らかに鳴り響くこのフレーズが次ぎに用意されている筈だ。それが肩透かしを食らったら。
考えただけで恐ろしい。
「そういうことで金管って嫌いになりません?腹の立つことばかりじゃありませんか?」
と一度、Mの飲み会で隣になった俺の大好きなヴィオラの人に話したことがある。すると、笑って
「そういう風に見てもらいたいんだったら、明日からそう見てやるよ。(笑)」
と言われた。この時にああ、この人は金管の現実を本当に判ってくれているのだなと確信を持てた。勿論、多くの弦楽器の人も判ってくれているだろうと思う。ステージ上では、奏者は皆平等なんだ。仮令、全交響曲で一発しか音がないシンバルがあったとしよう。(実はそのような交響曲は実在するのだが。)これ、めちゃくちゃ重圧だぜ?他の事考えたりして入り損ねたり、あるいは自分で全く持って満足の行かない音を出したりしたら何のために今日ここまで遠路やって来て黒服着て、今の今まで座っていたのかわからなくなってしまう。しかも、下は芝生じゃないから、「OH~~~~」とシュート外したJリーグ選手みたいに懊悩の表情で寝転がり回る訳にも行かない。交響曲の最中にそんなことをする奏者が居たらその人は退団だ。
夫々の奏者に夫々の闘いがあるのですよ。
さて、本日のヒンデミットをやっと再び紹介できる。
題名の通り、そしてこの映像をご覧頂いてお分かりの通り、この組曲は弦と金管という呉越同舟(笑)で進められる組曲であり、木管楽器が無い。実は先ほどの運命のチャイコにおいてオーボエがフォルテシシシモというまるで一見土用丑の日のようなマークの音量の下トランペットやホルンと共に演奏されている。Alpenの地獄のHigh Dの部分においてもTpと共にクラリネットが、そしてあのコルサコフの千夜一夜物語の組曲においても最後のトランペットのファンファーレでも一緒にクラリネットが動いている。金管の生音というのものをオケにおいて特に弦と分散させるというのは実は木管楽器に同じ事をやらせて弦との鎹にさせる必要があるのではないか。その位、金管と弦楽器との倍音の接合というものに多くの作曲家は神経を使っている、否、その位困難なことであると思うのだ。考えてみれば、コルネット・サグヴァットの歴史を歩んできたもの。英国の様に金管バンドの歴史から来たもの、そしてナチュラルトランペット、クラリーノの様にずっとオケでやっていたもの。弦はそうした、多くの金管族との歴史に比べずっと以前から現在の形でこれら金管種と様々な時代を共にし、それらの時代時代で様々な作曲家を生んで来た筈。そしてそれら様々な作曲家や指揮者が近代にまで夫々の価値観で後進を育成し、その後進達も又、それらの価値観を持って現代にまでその末裔を残しているだろう。金管と弦との共存できる、出来た音色とはかくあるものだという価値観もそれに比例して正に千差万別に派生されて然るべきなのだが、金管と弦だけという取り合わせ作品の存在は稀有である。つまりはこれら千差万別の音楽の価値観が存在するどの時代においても、作品の構想以前にこれら2種楽器群のみの共存は木管の音色という鎹なしに、倍音のつなぎ合わせという点で各時代において暗にタブー視されてきたところがあったのではないかと俺は思うのだ。木・金の組み合わせについては言わずもがな、俺がかつて暮らした吹奏楽というポピュラーな世界があるね。
そのタブーを、このヒンデミットという人は取り去り実現させている。クールだが実際に聴いてみると難しいことが判る。一楽章最後などは延々と、弦とホルンのユニゾンが続くがこれは、ホルン奏者が聴いたら、絶対きついなと思うだろう。こうした弦も含めてのフルユニゾンはショスタコやブルックナーでも見受けられるがここまで長くきついものは余りないのではないか。しかも、一人でも外したり、音程が狂うと弦との倍音をつなぐ木管が居ない分さらにそれは赤裸々に結果として露呈されることとなる。それをこのシカゴは実にクールに演じきっている。指揮はヒンデミット氏ご本人。そして、そして!若きハーセス氏も十分にお楽しみ頂ける。画像にやや乱れがあるが音はそれほど悪く無し。これは、バーンスタイン氏のカーネギーにおける子供への音楽教育ビデオにも入っているが、バーンスタイン氏であれば、BPOをも凌ぐといわれた妖艶なるイスラエルの弦で聴いて頂きたい。また、サンフランシスコ ブロムシュテッド氏もお勧めNYPでは、ソニーからバーンスタイン氏のロイヤルエディションでの発売がなされているが、録音は1961年であり、まだスミス氏ではない。おやすみ。








PS Amazonのクラシック音楽に対する理解度には相変わらず閉口してしまう・・。
 

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